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インフレ時代の「価格戦略」──利益を生む経営への第一歩

近年のインフレ、賃金上昇、燃料費や原材料費の高騰――こうした外的要因は、多くの中小企業の経営を直撃しています。「値上げをしたくてもできない」「価格を上げると取引が減ってしまうのでは」――そんな不安を抱える経営者の声を、私たちは日々の支援現場で数多く耳にします。

しかし、今だからこそ「価格」に向き合うべきタイミングです。そして、今こそ「価格戦略」が企業の命運を分ける時代なのです。

価格戦略は“利益”を決める最右翼

「売上が伸びているのに、利益が残らない」
そんな現象に心当たりはないでしょうか? 実は、利益を決定づける最大の要素は「価格」です。売上=数量×単価というシンプルな構造において、価格設定ひとつで利益の大小が決まってしまいます。

にもかかわらず、多くの中小企業では価格を「なんとなく」「競合に合わせて」「取引先に言われたから」といった曖昧な基準で決定しています。価格は本来、顧客への価値提供と自社の戦略を反映すべき“経営判断”であるにもかかわらず、営業現場や取引関係に委ねられているケースがあまりにも多いのです。

日本の中小企業経営者の多くは、長らく「デフレ経済」の中で経営を続けてきました。価格を下げて取引を取りに行く、コストを削って利益を確保する――そうしたマインドが当たり前でした。しかし今は違います。インフレは、価格を見直す絶好の機会でもあるのです。

「価格=怖いもの」から「価格=成長の源」へ

たしかに、価格改定はリスクを伴います。取引の減少や顧客からのクレームを恐れて、値上げに踏み切れない企業も多いでしょう。

しかし、現実には多くの企業が価格転嫁に成功し、業績を回復させています。成功している企業には共通点があります。それは、「価格をコストの穴埋め手段としてではなく、事業戦略の一環として捉えている」ことです。

価格は、単に収益を確保するための手段ではなく、「自社の強み」「顧客の価値認識」「サービスの差別化」を伝えるための重要なメッセージでもあるのです。

価格を上げることは、実は“選ばれる企業”になるための第一歩。顧客に対して自信を持って価格を提示し、納得してもらえる理由を説明できる状態を作ることこそが、持続的な成長に繋がるのです。

【事例】赤字続きの運送業を黒字化へ導いた価格戦略

ここで、ある運送会社の事例をご紹介しましょう。

この企業は、年商10億円規模ながら、ここ数年は数千万円の赤字を計上していました。原因は明確で、燃料費や車両維持費、人件費の上昇といったコスト増を価格に転嫁できていなかったのです。特に問題だったのは、「売上が増えれば利益も増えるはず」という思い込み。実際には、赤字ルートが増えるほど損失も増えていたのです。

さらに、営業部門は新規開拓が不得手で、条件の悪い既存顧客との取引が積み重なっていました。経営陣も「値上げは顧客を失う」として、根本的な見直しに踏み切れずにいたのです。

そこで、私たちはまず利益構造の可視化から着手しました。車両別・ルート別に原価を精緻に分析し、どの取引が経営に寄与していないのかを明確にしました。そのうえで、荷物の内容やサービスレベル、競争状況などから「自社の優位性が発揮できる取引先」を抽出。優先順位をつけたうえで、値上げのシミュレーションを行い、収益改善の全体像を経営陣に提示しました。

並行して、新規顧客候補のリストアップも実施。営業が「失注を恐れず値上げ交渉できる」よう、代替顧客を確保するための新規開拓戦略も用意しました。

結果として、わずか半年で値上げ交渉が進み、収益構造が大幅に改善。経営は黒字化に転じ、メインバンクからの信用も回復。後継者の帰還にも繋がるなど、経営基盤の再構築を実現しました。

※事例については、クライアントの機密を守るために、内容調整を行っております。

実行可能な「価格戦略」を組織に根付かせるには

弊社の価格戦略支援プログラムでは、単なる理論や資料提供ではなく、「組織の中で実行されること」を重視しています。具体的には以下の3点を軸に据えています:

  1. 現場に根差した原価・収益構造の可視化
    数字に基づいた判断こそが、経営者・営業の納得を生み出します。
  2. 営業部門を巻き込むファシリテーション
    価格戦略を実行するのは、最前線の営業。しかし「値上げ」を最も恐れるのも営業。彼らを巻き込んだ価格戦略により実効性を高めます。
  3. 必要に応じた新規開拓・営業戦略の再構築
    値上げのリスクを減らすには、受け皿となる新たな取引先の確保も不可欠です。こうした側面からは、営業力強化も併せて必要となります。

価格戦略は、単なる数字の操作ではありません。それは、「どの顧客に」「どんな価値を」「どんな価格で」提供するかという、企業の根幹を定める意思決定です。そしてそれは、経営の未来を切り拓く“攻めの一手”となりうるのです。

今こそ「価格」に目を向けるとき

市場環境が大きく変化する今こそ、価格を見直すチャンスです。インフレや賃上げはリスクであると同時に、長年の「価格据え置き」から脱却するきっかけでもあります。

「価格決定」は、感覚や雰囲気ではなく、経営戦略に基づいて行うべき時代です。ぜひこの機会に、自社の価格戦略を見直してみてはいかがでしょうか。

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