企業の現場に深く入り込み、
「自走型」の組織文化を育てる。
株式会社HMC
代表取締役社長 星野 剛
キーエンスから独立し、盛岡で創業したのはなぜでしょうか?
星野:キーエンスの営業・マーケティング部門で 17年間勤務し、経営コンサルタントの土台となる営業の科学・仕組みづくりを徹底的に学びました。営業というと、いまだに根性論や個々の資質をあげる人もいますが、そうした考えはもはや過去のもの。トップ営業として全国1位を何度か獲得する中で、属人的に思われがちな営業のテクニックを標準化し、科学的なアプローチから生産性を上げる「自分なりの形」を体得したんです。他にも営業間の情報共有の仕組みづくりや、顧客情報管理とマーケティングを結びつけた施策などを展開し、マーケティング部門では責任者として付加価値をつける商品・サービスの開発などにも携わりました。
B to Bの取引でしたから、倒産する中小企業を目の当たりにする機会も多く、キーエンスで学び得た営業のノウハウやマーケティングの知識を地方の企業に還元したいと思うようになったんです。いずれは起業しようと考えていたこともあり、中小企業診断士の資格を取得したのち、縁のあった盛岡で独立しました。地方企業が大手に頼らず、自力で成長できるよう支えることが、私の使命と考えています。
HMCのコンサルティングの特長を教えてください。
星野:経営が立ち行かない企業の社長の多くは、主に2つの言い訳をします。一つは、「外部環境」のせい。本来ならコロナ禍などの環境変化にも対応するのが経営者の役割なのですが、変化に追随できない自分を顧みず、外部環境のせいにする。もう一つは、「従業員」のせい。幹部がしっかり働かないから、従業員が成長しないから、うまくいかないと言います。幹部が動かないのは、機能できるような評価制度を作っていないからですし、従業員が成長できないのは育成制度がないからです。こうした企業の多くはワンマン経営の傾向があり、幹部や従業員の自律性が失われ、現場の停滞や離職率の増加といった問題が生まれやすくなります。
これまで1,300社以上のクライアントに携わってきた経験から、私が一番大切にしているのは「組織が動かなければ、絵に描いた餅になる」ということです。どんなに素晴らしい提案をしても、現場が本気になって動かなければ意味がありません。キーエンスという会社がすごいのは、目標を達成するために必要だと決めたことは、徹頭徹尾やり抜くことです。仮に1日5件以上の営業アポイントを設定したとしても、その必要性を理解していればみんな取り組みますし、必ずやり抜くからこそ高い収益を上げることができるのです。
私たちはまず、クライアントの真の課題を整理・分析するために、社長や幹部、主要スタッフとの「ワン・オン・ワンの面談」で本音を引き出し、営業同行を通して取引先からの評価を見極めます。そして会議ではファシリテーターとして、経営変革のネックとなる「意思決定の障害」を取り除き、社員間のコミュニケーションを円滑にする環境を整えます。外側から結果だけを問うのではなく、内側に深く入り込んで利益を出せない問題点に切り込み、仕組みが“実際に回る”ようになるまでサポートしていきます。

他のコンサルファームとの違いを教えてください。
星野:ひとくちにコンサルファームといっても、それぞれ得意領域が違います。例えば、会計事務所から立ち上がったファームは、銀行との金融調整は得意ですが、営業や販売のことは知識が足りない場合もあります。逆に営業・マーケティングが得意であっても、財務関係は不得手とするファームもあります。各分野の専門家を揃えた大手ファームなら様々な要望に対応できるかもしれませんが、高額なコンサル料が必要となりますので、全方位に対応できて中小企業のサイズ感にフィットするコンサルファームは少ないのが現状です。
その点、私たちHMCは、キーエンスで鍛えた営業・マーケティング力を柱に、それに連動する評価制度の構築や財務・資金繰り、管理会計など、あらゆる相談に対応できるノウハウと実行力を備えています。こうした強みを武器として、私たちが行っているのが「伴走支援型」のサポートです。クライアントの状況を踏まえた合理的かつ達成可能な目標設定から、その考え方のブレイクダウン、実現に向けてなすべきプロセスの設定、結果の振り返りとフィードバックなど、実際に私たちが手本を示しながらコーチングを行い、自分たちで実践できるように指導します。
また、月数回の支援の中で、注力するテーマも柔軟に変えていきます。営業戦略、人事制度、資金繰りなど、その時に、一番優先度の高い課題に集中して支援を行います。大手ファームのように「新テーマごとに費用加算」するのではなく、コストを抑えつつ成果を最大化できるコスパの高い支援を行っています。
今の中小企業の状況をどうご覧になっていますか?
星野:大きく分けて4つの課題があると思っています。
1)コロナ禍からの回復が進まない企業が多い
事業再生の現場では再生計画の作成に注力しますが、計画を実行することができず形骸化するケースも多く見受けられます。ただの計画策定や経営者のアドバイスだけでは難しく、「計画を推進する組織の力をどう引き出すか」が重要です。本来、事業再生とは単なる数字の回復ではなく、「人と組織の再生」に他なりません。経営者や従業員が自ら動き出せるようになるために、「内から引き出す支援」が必要です。現在、HMCには数多くのご相談が寄せられており、受け入れ体制を拡充できるよう環境を整えているところです。
2)インフレによるコスト上昇を価格転嫁できない企業
市場環境が変化しても、取引が減るのを恐れて「値上げができない」企業が多くあります。しかし、価格とは本来、単に収益を確保するための手段ではなく、自社の強みやサービスの差別化を伝えるための企業のメッセージです。ただ値上げすればいいのではなく、事業戦略の一環として、価格と営業をセットで考えなければなりません。そこで私たちは、価格戦略の立案に加えて、収益性を改善するための注力カテゴリーの見直し、従業員のモチベーションを高める人事評価制度の整備による生産性の改善といった基盤づくりを支援しています。
3)AIを活用しきれない企業が多い
AIは脅威でもありますが、その流れはもはや止められません。AIは、新しい事業の方向性を探るべく調査・分析を行う上でも、各部署の仕事を効率的に進める上でも、頼りになるパートナーです。自動車に乗るように当たり前にAIを使いこなしながら、従業員が力を入れるべき仕事に専念できるよう積極的に取り入れていくべきだと考えています。今は誰もが初心者の状態ですから、私たち自身もスピード感を持ってAIを活用し、クライアント企業にも導入支援できる体制を整えていきます。
4)事業継承と後継者育成
経営者の高齢化が進んでいますが、後継者が十分に育っていない企業が多くあります。事業継承とは単なる「モノの移転」ではなく、引き継ぐべきは「事業そのもの」であり、経営者の「想い」や「哲学」です。そこで私たちは、「見える資産」と「見えない資産」の両面を捉えた包括的な支援を提供しています。通常の改革プロジェクトの中に後継者やその片腕となる若手幹部候補を必ず巻き込み、実践を通じて承継準備を進める支援を増やしています。

実際の支援ではどんな関わり方をされていますか?
私たちは現場に入り込んで、月2〜3回は会議に同席してファシリテーションで議論を整理したり、社長や幹部、従業員と「ワン・オン・ワン」で腹を割って話したり、必要な場合は営業に同行することもあります。細かいと思われるかもしれませんが、その一つひとつをある程度深めていかなければ、会社全体をコンサルティングすることはできません。大変な手間と時間がかかりますが、そこまでやるのが「伴走型支援」のHMCの強み。例えば、赤字続きだった製造業を、会議体の改革と評価制度の整備で3期連続黒字に転換した事例もあります。また、食品会社では、新人営業を立ち上げ、半年で加工品の売上を倍増させた実績もあります。どちらにも共通しているのは「外からの助言」ではなく、内部に入り込み、ともに仕組みを回すという点です。
今後、どのような姿を目指していますか?
地域の中小企業は、人口減少・人材不足という大きな波に直面しており、地域内だけで収益を上げ続けることが難しくなってきています。その中で生き残っていくためには、他社と差別化できるマーケティングと営業手法を組み合わせ、「外貨を獲得すること」。そして、永続的に成長できるよう、経営者や従業員自身が考え、選択し、改善していく「自走できる組織になること」が必須です。
私たちもまた、最新のテクノロジーの活用を積極的に進めながら、コンサルタントとして必要とされる人間力・提案力・対応力を磨きながら、人と組織のより良い幸せにつながるサービスを提供していきたいと考えています。これからも地方企業と共に歩みながら、少しでも多くの企業が外の市場に挑戦し、自ら成長し続ける力を持てるように支援していきます。その先にこそ、地域全体の再生があると信じています。
資格など
- 中小企業診断士
- (一社)金融検定協会認定 ターンアラウンドマネージャー/事業承継マネージャー
- 日本医業経営コンサルタント協会認定 医業経営コンサルタント
プロフィール
1996年株式会社キーエンス入社。営業として配属され在職中は営業で全国1位を3回獲得。盛岡営業所の所長を経て、本社の営業企画部門やマーケティング部門で全国1,000名の営業間の情報共有施策、顧客情報管理とマーケティングの融合などを推進。2012年前職で縁のあった盛岡で独立開業。独立後は、よろず支援拠点のチーフコーディネーター(2015年~2020年)や、再生支援協議会の専門家などを歴任。現在は「管理会計」「価格戦略」「法人営業仕組みづくり」「評価制度構築」などを主テーマに、岩手県、青森県、宮城県、山形県など東北中心に活動。キーエンス流を「中小企業向け」にアレンジさせつつ、「ファシリテーション力」で組織変革に注力している。
経歴
- 1996年
- 株式会社キーエンス入社
- 2004年同社
- 盛岡営業所所長
- 2005年同社
- 本社事業推進部
- 2011年同社
- 本社マーケティング部門責任者
- 2013年独立
- 2014年法人成り 株式会社エイチエムシー 代表取締役就任(現職)
行政機関など実績
- 岩手県よろず支援拠点 チーフコーディネーター
- 岩手県中小企業活性化協議会 専任専門家 など多数
- (独)中小企業基盤整備機構 経営アドバイザー
- (公財)いわて産業振興センター 経営コーディネーター
- 他にも、商工会議所や商工会 専任専門家 など多数
國學院大学法学部卒